はじめに
こんにちは、富士通クラウドテクノロジーズの甲斐です。
社内のITを担当するいわゆる「情報システム担当者」で
システム基盤をオンプレミスからパブリッククラウドへ移行したいが、何から手をつけたらよいかわからない
パブリッククラウドを導入したとして、社内へどのように展開すればよいかわからない
といったお悩みをお持ちの方は多いと思います。
今回は、オンプレミスからのパブリッククラウド移行への現実解である「ハイブリッドクラウド」を説明します。
- はじめに
- オンプレミスとパブリッククラウドを簡単に接続して、両方とも使う
- ハイブリッドクラウドが選ばれる場合の構成例
- パブリッククラウドのメリット
- オンプレミスのメリット
- ハイブリッドクラウドが選ばれる場合の構成例(再掲)
- オンプレミスとハイブリッドクラウドをどう接続するのか
- クラウド移行の第1歩をハイブリッドクラウドで
オンプレミスとパブリッククラウドを簡単に接続して、両方とも使う
弊社のパブリッククラウドサービス「ニフクラ」を例とします。
オンプレミスでVMware vSphereをご利用の場合、
オンプレミスにある仮想マシン(VM)をパブリッククラウド(ニフクラ)に移す、あるいはパブリッククラウド(ニフクラ)上で仮想マシンを新規作成する
オンプレミスと、パブリッククラウド(ニフクラ)を同一ネットワークとして接続する
だけで簡単に利用することができます。
このように、システム基盤を「オンプレミスのみ」「パブリッククラウドのみ」で構築するのではなく、適材適所で使い分け、オンプレミスとパブリッククラウドの「良いところ取り」を目指した環境を「ハイブリッドクラウド」と呼びます。
この記事では、ハイブリッドクラウドの構成要素である、
オンプレミス
パブリッククラウド
オンプレミスとパブリッククラウドを接続するネットワーク
について説明します。
無料eBook『「ハイブリッドクラウド」の作り方 「2025年の崖」を超えるためのITロードマップ』
ハイブリッドクラウドが選ばれる場合の構成例
ハイブリッドクラウドはどのような状況で利用されるのでしょうか?
オンプレミスに置かれた環境 | パブリッククラウドに置かれた環境 |
---|---|
本番環境 | DR環境 |
データベース | WEBサーバー |
既存システム | 新規事業用の環境(異分野、AI、IoTなど) |
既存システム | 一時的な利用用途の環境(期間限定サービス、データ退避など) |
なぜ、このような構成が取られるのでしょうか?
それは、オンプレミスとパブリッククラウドの「良いところ取り」を目指した結果です。パブリッククラウドとオンプレミスの「良いところ」、すなわちメリット、およびデメリットを見てみましょう。
パブリッククラウドのメリット
まずは、パブリッククラウドのメリットを見てみましょう。
× オンプレミスのデメリット | ○ パブリッククラウドのメリット |
---|---|
約5年毎のリプレイス工数が多大 | サーバーのリプレイス不要 |
設置場所によっては、立地・セキュリティ・温度などの管理、スペース確保が必要 | 堅牢かつ万全の体制のデータセンターで管理 |
初期導入コストが高い | スモールスタートできる |
5年程度維持する必要がある | いつでも解約できる |
最大利用時に合わせた精緻なサイジングが必要 | 後からサイジング変更できる |
リソース過剰・リソース不足のリスクがある | 常にサイジングを最適化できる |
機器調達に時間がかかる | オンデマンドで調達できる |
作業時、遠隔地のデータセンターまで出向く必要がある | 自分のPCからリソース作成・削除できる |
パブリッククラウドのメリットは、「場所や時間にとらわれない」こと、オンプレミスのデメリットは、「物理的な制約がある」ことだと言えるでしょう。
概要 | 具体例 |
---|---|
需要予測が難しいシステム | 新規事業(異分野、AI、IoTなど) |
繁忙期と閑散期でリソース利用量の差が大きいシステム | WEB、POS |
解約を前提とした一時的な利用 | 期間限定サービス、データ退避など |
物理的な距離が必要なシステム | DR |
クラウドを「お試し」できる、ビジネスへの影響が比較的小さいシステム | DR、バックアップ |
パブリッククラウドは、利用量や利用期間が流動的な環境や、遠距離であることが要求されるDR環境に多く利用されると考えられます。
パブリッククラウド活用で、情報システム担当者が受けられる恩恵
そんなパブリッククラウドのメリットから、情報システム担当者は以下のような恩恵に預かることができるでしょう。
情報システム担当者の業務改善
- 何年利用しても保守切れが発生しないため、移行の工数をなくせる
- サーバー払い出しが自分のPCからできるため、払い出し工数を削減できる
機会損失・過剰投資の抑止・コスト最適化
- サイジングを後から変更できるため、繁忙期のリソース枯渇や閑散期の過剰投資への不安がなくなる
- オンデマンドでリソース作成・削除が可能なため、期間限定サービスや一時的なデータ退避所への短期利用ができ、無駄なコストがなくなる
「攻める情シス」としてビジネスへ貢献
- 前例がなく、市場規模や利用量の見積もりが難しい新規事業へのインフラ基盤提供が容易になる
オンプレミスのメリット
次に、オンプレミスのメリットを見てみましょう。
○ オンプレミスのメリット | × パブリッククラウドのデメリット |
---|---|
自由にカスタマイズできる | クラウド事業者により標準化されているため、カスタマイズが難しい |
性能保証される | ベストエフォート |
リソースを専有できる | 他の利用者とのリソース共有 |
機器が手元にある心理的安心感 | 機器がどこにあるかわからない漠然とした不安感 |
オンプレミスのメリットは、自分の持ち物なので「100%自分の好きなようにできる」「安心できる」こと、パブリッククラウドのデメリットは、「クラウド事業者の仕様による制約がある」「リソース共有に対しての不安がある」ことだと言えるでしょう。
概要 | 具体例 |
---|---|
高いレスポンスを保ちたい環境 | データベース |
カスタマイズを多く加えた環境 | ネットワークセグメントが複雑、ハイパーバイザーの使い方が特殊など |
オンプレミスは、パブリッククラウドの仕様に収まりきらない恐れがある環境に利用されると考えられます。
ハイブリッドクラウドが選ばれる場合の構成例(再掲)
ハイブリッドクラウドはどのような状況で利用されているか、再度確認しましょう。
オンプレミスに置かれた環境 | パブリッククラウドに置かれた環境 |
---|---|
本番環境 | DR環境 |
データベース | WEBサーバー |
既存システム | 新規事業用の環境(異分野、AI、IoTなど) |
既存システム | 一時的な利用用途の環境(期間限定サービス、データ退避など) |
ハイブリッドクラウドの利用状況を見ると、以下のようにシステムの特性によって使い分けられていることが考えられます。
- オンプレミスに「ビジネスへの影響が大きいシステム・環境」
パブリッククラウドに「ビジネスへの影響が比較的小さいシステム・環境」 - オンプレミスに「既存のシステム」
パブリッククラウドに「オンプレミス時代には存在しなかったシステム・環境」 - オンプレミスに「高いレスポンスを保ちたいシステム」
パブリッククラウドに「利用量の波が激しいシステム・環境」
また、「オンプレミスにあるシステムを、サーバーが保守切れしたものから順にパブリッククラウドに移行する」という、時間差で移行する例も見受けられます。
上記を参考にすると、パブリッククラウドを初めて利用する場合、以下のような使い方が比較的検討しやすそうです。
- 本番環境のみ存在しそれをオンプレミスで運用しているのなら、パブリッククラウドにDR環境を新設してみる
- 既存のシステムはオンプレミスのままで、パブリッククラウドにてAIを使ったデータ分析の新規事業などに使ってみる
- 比較的ビジネスへの影響が少ない社内システムのうち、一部のサーバーをパブリッククラウドに移行してみる
まずはパブリッククラウドを使ってみることで、実体験から様々な経験が得られ、次のステップに向けて必要な課題やノウハウを明確にすることができます。
オンプレミスとハイブリッドクラウドをどう接続するのか
オンプレミスとパブリッククラウドの2つの環境を構築したら、両者をどう接続すればよいのでしょうか。
パブリッククラウドへの移行検討時に不安に思うことの一つは、「パブリッククラウドにしたらIPアドレスが変わってしまう」ことだと思います。社内システムを例にとると、プライベートIPアドレスが変わる場合、社内向けには総務部門や利用部門との、社外向けには回線業者やSE、アプリベンダーなどとの調整の工数発生が予想されます。
この工数を懸念してパブリッククラウドへの移行を躊躇される方も多いようですが、「パブリッククラウドにしてもIPアドレスが変わらない」としたらどうでしょう?
IPアドレスを変えずに同一ネットワークのように両者を接続できる「L2延伸」
「パブリッククラウド=ネットワークがインターネット上にある」と思われがちですが、それは誤解です。
「プライベートLAN」環境をベースとした、インターネットから分離された閉じたネットワークで構成することも可能です。閉じたネットワークで構成されたオンプレミス環境とパブリッククラウドを、セキュアに「L2延伸」することで、クラウド上にあるシステムに対して、あたかもオンプレミス環境にあるかのようにアクセスすることができます。
L2延伸すると、パブリッククラウド上にあるシステムも社内ネットワーク上にあるように振る舞うため、オンプレミスで動いていたシステムをクラウドに移行した場合でも、IPアドレス等を変える必要はありません。
ニフクラではL2延伸に対応した拠点間VPNゲートウェイというサービスを提供しており、L2延伸を活用すると、オンプレミスとパブリッククラウドを同一ネットワークとして接続でき、簡単に両方とも利用することができます。オンプレミスからクラウドへのスムーズな仮想マシン(VM)の移行や、クラウドの検証環境構築が可能になります。
サーバーをパブリッククラウドに移行すると遅くなる?
これまでオンプレミスで運用していたサーバーを社外のパブリッククラウドに移行すると「ネットワークのスピードが遅くなって、使い物にならなくなるのではないか」という疑問をお持ちであれば、ユーザーの環境や、契約プラン、利用時間帯などによって変化する可能性が高いため、検証・評価を行うとよいでしょう。
なお、ニフクラで独自に実施した検証結果を別記事にしています。
VPN ゲートウェイの性能評価 - ニフクラ ブログ
クラウド移行の第1歩をハイブリッドクラウドで
- システム基盤をオンプレミスからパブリッククラウドへ移行したいが、何から手をつけたらよいかわからない
- パブリッククラウドを導入したとして、社内へどのように展開すればよいかわからない
という課題への現実解として、オンプレミスにある仮想マシン(VM)をパブリッククラウドに移して、オンプレミスとパブリッククラウドを同一ネットワークとして接続、簡単に両方とも利用するハイブリッドクラウドについてご説明しました。
昨今、日本の情報システム部門や社内ITのご担当者は以下の問題を抱えています。
- 経営層から、いわゆる「守りの情シス」からの脱却、脱コストセンター化を求められる
- AIやIoTなど、既存の基盤払い出しの考え方とは異なるジャンルへの対応、DX推進を求められる
- 働き方改革で時短やテレワークなど多様な働き方の実現を求められているが、多大な物理機器の維持管理工数により対応が困難になる
- 「2025年の崖」問題により日本のIT人材が不足し、レガシーシステムの子守りをする余裕はなくなる
このような問題への対応のためITインフラも変革が求められていますが、オンプレミス環境のサーバーリプレイスと払い出しで日々が過ぎていき現状維持で手一杯、というのが現実ではないでしょうか。
ITインフラ変革のため、まずは第1歩としてハイブリッドクラウドでパブリッククラウドを簡単に「お試し」してみましょう。
- ハイブリッドクラウドをどうやって始めたらよいのか?
- システムの一部をクラウド化したら、その後はどうしたらよいのか?
など、ハイブリッドクラウドの具体的な導入手順やメリットを示した無料eBook『「ハイブリッドクラウド」の作り方 「2025年の崖」を超えるためのITロードマップ』を無料でダウンロードいただけますので、ご覧ください。
この記事でご紹介しました構成例とともに、このeBookがクラウド移行の第1歩を進める一助となることを祈念しております。